7月4日(日)の国語の学習会は、「作文教育」がテーマでした。
昨年度末に、本校卒業生が残してくれた卒業文集から印象的だった作文を1つ選び教材用に提出したところ、この日の学習会で取り上げられました。今後の指導に役立つ内容が多々ありましたので、ここに紹介します。※作文掲載に関しては、本人の許可を得ています。
「私の夢」
私の夢は、音楽に関係する仕事に就くことです。なぜなら、私に五年間ピアノを教えてくれた大好きな先生から学んだ音楽をずっと大切にしていきたいからです。
私は、一年生の三学期からピアノを習い始めました。でも、実際にレッスンに通ってみると、私はなかなか上達せず、そのうちピアノは楽しくないと思うようになってしまいました。
そんなある日、上手に弾けないくやしさから、思わず先生に「ピアノつまらない」と言ってしまいました。でも、その時先生は怒るどころが、私にいつも通り優しく接してくれました。私は、先生が傷つくようないけないことを言ってしまったので、その出来事は今でも忘れることができません。
優しい先生は、いつでも明るく楽しくピアノを教えてくれました。帰りには頑張ったごほうびに、めずらしくてかわいいシールもくれました。先生のおかげで私は、だんだんピアノを弾くことが楽しく感じるようになりました。
先生にはたくさんの曲を学びましたが、一番心に残っている曲は『旅立ちの日に』という曲です。この曲は、自分で和音を探した練習曲でもあり、先生から楽譜をもらって、教えてもらいながら弾けるようになった思い出の曲です。
先生は、二年前にがんとわかり、入院や退院を繰り返すようになりました。レッスンもお休みが多くなりました。そして、昨年の春、先生が退院したと知ってとても嬉しかったけれど、家で酸素チューブを吸いながら生活していることを母から聞きました。
新型コロナウイルスに先生が感染してしまうと大変なので、動画でレッスンを受けることになりました。でも、動画レッスンは一回おこなってもらったのですが、その後、先生の体調が悪くなって、七月に亡くなりました。とても悲しかったです。しばらく先生のことを思い出してはよく泣いていました。
私は、優しくて大好きだった先生に喜んでもらいたいから、音楽に関係する仕事に将来就けたら良いなと思いました。まだ具体的には決まっていないのでこれから考えていこうと思います。
今、私はピアノを習っていませんが、時間がある時に先生に習った曲を弾いています。ピアノを弾くときは必ず『旅立ちの日に』を弾いています。この曲を弾くといつも先生のことを思い出します。
できることなら、もう一度先生に会いたいです。会って一年生の頃のことを謝りたいし、お礼を言いたいです。そして、先生に『旅立ちの日に』を聴いてもらいたいです。
長谷川がこの作文を選んだ理由
1)「お世話になった先生と自分の夢」について作文のテーマ<観点>が一貫しているから。
2)「命」という普遍のテーマに触れているから。
3)教師としての「ピアノの先生」の生き方に共感したから。
参加者からの意見
1)冒頭に「私の夢は、音楽に関係する仕事に就くことです」と言い切る表現により、その理由を読み手は知りたくなり、次に「私に五年間ピアノを教えてくれた大好きな先生」とあるので、読み手は、「どんな先生」か、知りたくなる。読み手をぐいぐいと引き込む<仕掛け>のある文章だ。
2)「自分の夢」と、先生との日々(レッスン、闘病、死)が「関連」づけられている。それが、高学年らしい認識の在り様に思える。
3)子どもたちが「書く」ということの意味について…「今の私」という<視点人物>が、「かつての私」という<対象人物>を見つめ、回想している。12歳の私から見たら「傷つけたことだろう」と反省している。つまり「書く」ということは「自己」を<対象化>し<意味づけ>することといえる。
例)「ピアノは楽しくないと思うようになってしまいました」の「しまいました」という文末表現→「自己」を<対象化>した上での<意味づけ>を行った結果。
4)『旅立ちの日に』という卒業式の定番曲が、先生との思い出(レッスン、闘病、死)を結びつけるキーワードになり、印象的な作文になっている。
5)タイトルが「私の夢」ではなく、『旅立ちの日に』の方が、より印象的な作文になったかもしれない。
6)「<夢>を語る微笑ましい印象の作文が、途中から悲しい物語になる構成」と、「最初に悲しい現実を述べてからこれまでの経緯やこれからを述べる構成」の両方を検討してもよかっただろう。(どちらの方が、よりドラマチックか)→推敲指導の重要性につながる。
7)時系列で振り返っていることで内面を深く見つめていることが伝わってくるので、時系列の構成がむしろ読み手を惹きつけているのではないか。
まとめ
作文で大切なことは、読み手に最後まで読ませる<完読>のための<仕掛け>です。ネットで文章を読むことが多い昨今の読者は、「つまらない」と思うとすぐ「離脱」して読むのをやめてしまいます。
この「私の夢」には、読み手を最後まで惹きつける様々な<仕掛け>が行われています。
しかも「夢」と「命」という、人類普遍のテーマを扱っており、読んだ後にも余韻が残ります。
さらに最後は、先生に対する「感謝」の言葉で締めくくられているところから、「聖徳の子」として立派に成長した様子が伝わってきます。
構成について
冒頭で読者の興味を惹きつける「つかみ」の後、①過去②現在③未来の時系列に述べる型と、①現在②過去③未来の「現在」を真っ先に述べる型の2つが考えられます。余裕があれば両方書いてみて、比較検討するのが良いでしょう。
※今回は「構成」が大事と述べましたが、当然ながら伝える「内容」も大切です。「構成」と「内容」は作文の両輪といえるでしょう。