国の「黒い雨訴訟、上告断念」のニュースが流れたことが記憶に新しい今、「たずねびと」を読むと76年前の出来事が、「自分ごと」に思えてくるのでした。
「たずねびと」は学習指導要領が新しくなったことにともない、新たに5年生国語の教科書に取り入れられた、広島県出身の朽木祥(くつき・しょう)さん書き下ろしの物語文です。
5年生の保護者の方は、教科書を借りてぜひ読んでみてください。
これまでの戦争文学は、戦争当事者の視点で書かれたものが多いのですが、この「たずねびと」は、「今をいきる子どもたち」の視点で描かれている点において、「平和教材のニューウェーブ」ともいえる作品です。
物語は、冒頭の「すごく不思議なポスターだった」という一文から始まります。物語全体が、謎解きのミステリーのような展開で、読者を物語に引き込みます。
物語のすべてが主人公の「楠木綾(くすのき・あや)」の視点で描かれています。主人公が、どうして原爆について関心を持つようになったかという動機が、丹念に描かれています。それによって、読者自身も主人公に同化することができるのです。
主人公がさまざまな発見をする場面を描きながら、読者も問いかけられているような展開が続きます。それが戦争を「自分ごと」に感じさせる「仕掛け」なのでしょう。
唯一不思議なのは、主人公が見た「夢」の場面です。あえて非現実の場面を入れた意図について、議論ができたらと思います。
普通に読んだだけでは平和の大切さを伝える物語文で終わってしまう「たずねびと」ですが、「国語」の視点で深く読み取ることによって、何倍にも価値のある物語文になることでしょう。
5年生の国語授業での「深い学び」に期待しています。